『火種が消えるまで』 R.Y.

 

  「君は上司とうまくいかないねえ」以前、職場の人から言われた言葉です。確かにこれまで心から尊敬し、慕うことのできる上司などほとんどいませんでした。
  振り返ってみると、気の弱い人や動物を見ると、とても情け深い優しい気持ちになる一方、立場が上の人に対しては厳しい目で批判したくなり、特に上司から理不尽な言動をされると怒りの感情でいっぱいになりました。
  ちょうど1年前もそのような状況で苦しい毎日が続いていました。その頃、活字に救いを求めていた私は、原始仏教関係の本がきっかけとなり、ヴィパッサナー瞑想に興味を持ち始めました。インターネットで数あるヴィパッサナー関連のHPの中からグリーンヒル Web会を見つけ、朝日カルチャーでの地橋先生の講座が第一歩となりました。
  その後、東京瞑想会や泊まらない1day合宿、2泊3日の合宿に参加し、また幸運にも今年のゴールデンウイークに内観研修所へ行くことができました。内観では感謝への転換が上手にできませんでしたが、折り合いの悪かった家族との関係を見直すいい機会となりました。
  思い出した出来事の一つに、私が5歳の頃、4歳下の病弱な弟が夜中に急病となり、私一人を残して家族が病院に行ってしまったことがありました。夜中に目を覚ました私は誰もいないことに動転し、玄関の外で泣き叫んでいるところを近所の方に保護されました。当時のことを思い出すだけで、寂しさと苦しさで胸がつまり体が硬直するなど、私にとって大きなダメージとなりました。
  後に母からは、寝ている私を起こすのが可哀想で置いて行ったと説明してもらいましたが、「私のことは二の次、弟の方が大事」とネガティブに解釈し、家族全員に対して恨みの感情を持つのと同時に、自分が存在してはいけないような気持で生きてきたことが見えてきました。
  内観を終え今までの自分を見直してみると、親に対する不満を職場の上司へ投影してきたこと、また怒りの感情の直前に引き金となるパターンがあることに気づくことができました。
  そのパターンとは、心の奥底に刷り込まれた「見捨てられ不安」です。一人ぼっちや存在を無視されているように感じる出来事があると、5歳当時の感覚が蘇り、怒りのスイッチが入ってしまうのです。
  たとえば、待ち合わせ場所に長時間一人でいなければならなかったり、誕生日を祝ってもらえなかったり、自分のものを知らない間に捨てられた時など、激しい怒りの感情がわき起こり、両親だけでなく、結婚後も夫に当たり散らしてきました。
  ヴィパッサナー瞑想に出会うまでは、このモヤモヤした感覚が理解できず息苦しい日々でしたが、今ではこの感情に対して素早くサティを入れ、怒りの炎が大きく広がらないように心の動きを見張ることができるようになりました。発火の原因を特定できたことで対処がしやすくなったと感じています。
  早い時期に内観を体験でき、内観で明らかになった自分のあり樣をヴィパッサナー瞑想とのセットで強く意識化できたことは、穏やかな毎日を過ごすために大変役に立っています。
  私はこれまで自分が犬で、親を飼い主のように考え、「親(飼い主)としての責任を果たしなさい」とリードの取っ手を父や母に無理やり持たせて生きてきたように感じます。リードでつながれた関係は、お互いの距離を狭め、吠え合い、噛み合うなど、多くの苦しみをもたらしてきました。
  しかし、これからはお互いが幸せに生きるためにも、この恨みと依存の象徴であるリードを親から自らの手に持ちかえ、自分が自分の飼い主でありたいと考えています。そして、自らをしつけ、愛情を注ぎ、正しい方向へ導いていきたいと思っています。
  ヴィパッサナー瞑想は、これらを実践するために私にとって大切なメソッドです。この瞑想に出会えたこと、地橋先生や法友の存在に心より感謝しています。そして、未来の自分がどのように変わっていくかは自分次第だと心に誓い、今できることに集中して今後も心の清浄遺に取り組んでいく所存です。