『無明長夜に差す光明』 匿名希望
「触れた→ (目を)開いた→新聞→女性→縮み→膨らみ→・・・」
先日の通勤電車でのできごとです。いつものように『慈悲の瞑想』の後、『坐る瞑想』を実践していた私の額に女性の乗客が広げた新聞が当たったのです。以前でしたら電光石火の速さで怒りが全身を駆け廻ったものですが、この時は怒りを感じることなく瞑想を継続することができました。
私は10数年間、早朝覚醒、途中覚醒の睡眠障害、深い落ち込み、漠然とした不安に苦しんできました。特に睡眠障害には数種類の睡眠薬も卓効がなく途方に暮れていたのです。家族、健康、仕事に特段の問題を感じていなかった私にはこの苦しみの原因が特定できず、「自分は繊細な感受性をもった人間だから普通の人よりも強いストレスを感じるのだろう」と考えていました。
仕事の多忙とともに苦しみが募った昨年の夏、偶然、『ヴィパッサナー瞑想』を知りました。苦しみから脱け出すのに有効かもしれないと期待し、朝日カルチャーセンターの地橋先生の講座を藁にもすがる思いで受講することにしました。受講回数を重ねるうちに瞑想に専念できる環境で瞑想したくなり『東京瞑想会』、各種の『合宿』にも参加するようになりました。
地橋先生の御指導に従い毎日30分程度瞑想を続けて3箇月ほどたった頃、私は自分が怒る予兆を感じられるようになり、他人に対して怒ることがほとんどなくなってきました。その後、不安、落ち込み等についても同様で、徐々にこれらの予兆を感じるとサティを入れられるようになりました。その結果、これらの感情にとらわれることが少なくなりました。
また、瞑想会や合宿、インタビューでの地橋先生のダンマトークは私の苦しみの原因を突き止める大きな手がかりを与えてくださいました。その一例が『我所(私のもの、俺のもの)』に関することです。
私が合宿で瞑想する場所を他の修行者の方に占められていて『怒り』を感じたことをインタビューで地橋先生に報告すると、「それこそ、まさに『我所』ですね」との御指摘を受け、目が覚める思いがしました。私は『我所』の気持ちが大変強い人間だったのです。
電車の中での乗客のささいな振る舞いに腹を立てたり、会議で自分の能力を参加者に認めさせられなかったと感じて落ち込んだり、仕事で多忙が予想されるからと不安になったり・・・これらの『苦しみ』は勝手に自分のものと思い込んだ『空間』や『地位』、『時間』などを他人に侵されたと感じる『妄想』から発生しているのだとわかってきました。「感受性が繊細だから」云々とは笑止千万、私の精神は『縄張り』に執着するサル山の雄ザル以下であることを自覚せざるを得ませんでした。
睡眠障害を解決する手掛かりも得ることができました。私は日常の生活で感じた多くの『怒り』『落ち込み』『不安』を、毎夜毎夜、何度も飽きることなく繰り返し反芻していたのでした。あたかも、魔女が夜通し『魔女鍋』を掻き回しているかのように・・・。このような精神状態では安眠できるはずがなく、長い眠れぬ夜を過ごしていたのです。睡眠状態を改善するためには日常の『怒り』『落ち込み』『不安』をサティにより根絶やしにすることが有効であると考えるに至りました。
『ヴィパッサナー瞑想』を続けてから一年余りが経過しました。宿痾と諦めていた睡眠障害はいつのまにか全快しました。また、日々、心穏やかに過ごせる時間が増えてきました。これらは『ヴィパッサナー瞑想』の実践の成果です。
『ヴィパッサナー瞑想』は無明ゆえに苦しむ私に現れた一筋の光です。私は幸運にもこの光の源への道の入り口に立っています。この道は長く険しいことは承知しています。いつになったら目標にたどり着けるかはわかりませんが、今生での道案内は地橋先生にお願いすることにします。その御指導を頼りに法友の皆様と道を進む所存です。