『五戒を守る』 K.I.
ヴィパッサナー瞑想を始めてようやく半年になろうとしています。まだサティの入れ方も迷う入り口なので、瞑想による変化はよく分かりません。
ですが、確かに変わったと自覚がある点がいくつかあります。
朝カルのクラスに通っていて、毎回先生の詳しい話を聞いていますと、瞑想の上達以前にしっかりと整えねばならないことが分かってきました。「戒定慧」の順に修めて行かねばならない。まずは「戒」です。
「不殺生:殺さない」「不偸盗:盗まない」「不邪淫:人倫に悖らない」「不妄語:嘘をつかない」「不飲酒:酒を飲まない」
普通に生活していたら、人を殺さないし、盗まないし、不倫もしないし・・・と比較的簡単に考えていました。ちょっと抵抗があるのは不飲酒かな?などと気楽に考えていたのですが、いざやってみると難しいのです。
「不殺生」手に止まった蚊を殺さない。台所のゴキブリを殺さない。今までの人生でいったいいくつの命を奪ってきたのか!愕然とします。
「不偸盗」他人の家に行って泥棒を働いたことは無くても、ちょっと拾ったものをそのまま使ったことは無かったか?人のアイデアを自分の思いつきのように喋ったことは無かったか?
「不邪淫」実際の行動に移さなくても、心はどうだったのか?
「不妄語」その場を穏やかに傷つけないために、と事実ではない理由をつけたこと。相手が言ってほしい言葉を口先だけで言ったこと。たくさん嘘を言ってきたと思い至りました。
「不飲酒」そもそも悪いと思っていなかった。
破戒のカルマは必ず我が身に返ってくると知り、「今後は戒を守って生きる!」と決めました。
そうして決意してみますと、毎日が清々しいのです!五戒を守るためには決意と智恵が必要です。嘘をつかずに酒を辞退する。怒りが起こらぬようにして害虫から逃れる。等々。
ある夜、面白いことがありました。深夜、裸で風呂場のドアを開けたところ、大きなゴキブリがいました。窓を開けて追い出すわけにも行きません。今までなら躊躇なく殺虫剤だったと思うのですが、静かにドアを閉めて捕獲用のカップを取りに出ました。戻ってくるとゴキブリは消えていました。その時に思ったのは「私が不殺生戒を本気で守るかどうか、試すために現れたゴキブリだったのだな」ということでした。
毎日の生活の中で小さな小さなできごとが、五戒を守るかどうかの試金石になっているのです。私にとっては最初の一歩でしたが、大きな一歩でした。五戒を守り続けている意識は、毎日を明るくします。
どれほど本を読んでも、実際の行動を起こさなければ涅槃には近づけない。瞑想をいくら学んでも、実際に瞑想を続けなければ涅槃には近づけない。大事なのは毎日毎日の地道な努力だと思います。道は遠くて、今生だけでは無理かもしれません。わずか半年ですが、これが如何に無理な話か、分かってきました。でも、何回の輪廻の先でも、こうやって努力を続けるしかないのだと思います。
カルマの法則を知ることで、とても楽になったことも特筆すべきことです。
今までは悪いことが起きると、自分のどこが間違っていたのか、どうすれば良かったのか、何をしなければ良かったのか、自分を責めて責めていました。
でも今私に起きていることは、全て過去の自分が積んできたカルマが発動しているだけ。すべてそう思ってただ受け入れるしかない。私にできることは、今後悪業を積まないことだけ。この考え方は私にとって大きな救いでした。
視点も変わりました。「何がいけなかったのか?」という自分の中の犯人探しをするのではなく、因果関係を知ろうとして、これから何が必要かを考えるようになりました。
焦らず怠けず、真剣に取り組んでいこうと思っています。